第07話:森には音楽がある。
ウィーンの森の丘のふもとに、今も清らかな小川に沿って、
ベートーベンが第六交響曲「田園」の楽想を練ったといわれる
散歩道が続いている。
ニレやマロニエの大樹に覆われたこの道を散歩しながら、
当時すでに聴覚を失っていた彼が、小鳥の声を聴いたという。
ベートーベンは「自然は心の学校」という言葉を好んだという。
森の中で、彼は散歩の道すがら、
自然が奏でる情緒的な響きにじっと「心の耳」を傾けていた。
その響きがやがて魂をゆさぶり、
それが音符となってほとばしったのであろうか。
豊かな森は音に満ちている。
水の音、風の音、木の葉の音、虫の羽音、鳥の声、
キツツキが木の幹を叩く音、そして静寂の音……。
目を閉じて耳を澄ませば、
自然の奏でるすばらしい音楽を、聴かせてくれる。