2008.09.10
海には壮大なロマンがあります。
東海大学海洋学部環境情報工学科/久保田雅久先生
2001年10月、長野市で開催いたしましたミヤマ環境フォーラム「地球への旅」。私たちを取り巻く環境を、マクロな視点から見つめなおしたい。そんな想いから始まったフォーラムでした。このフォーラムで基調講演を務められ、現在放映中のテレビシリーズ「地球への旅 奇跡の海の物語」の監修もいただきました東海大学海洋学部の久保田雅久先生に伺いました。
小さい頃から昆虫が好きで、ファーブルのようになりたいと思っていたんですよ。海に関心が向いたのは、小学生の時に読んだジュール・ヴェルヌの「海底二万海里」です。最初は潜水艦を作りたい、って思いました。第二次大戦時に戦闘機「雷電」の設計に携わるエンジニアだった父の、ものづくりの血が騒いだのかもしれませんね(笑)。
海そのものに関心を持ったのは高校時代。当時既に世界的な権威でいらした吉田耕造先生の座談会の記事などが掲載されていた、「数理科学」という雑誌の海洋物理学特集をぼろぼろになるまで肌身離さず持ち歩いてました。中身は全然理解できませんでしたが...(笑)。
東京大学に進学すると、憧れの吉田先生に直接師事。1985年からは、米国フロリダ州立大学で、熱帯太平洋の変動特性をシミュレートするプロジェクトに参加。帰国後は、東海大学で教鞭を取られる傍ら、深層大循環の研究や、人工衛星を使った全球的な観測プロジェクトに参加されます。
海洋と大気の間では、熱、水、運動量の3種類の物理量が活発に交換されています。その相互作用の結果は、私たちの生活に直接関係してくる気象現象に影響を及ぼしています。それだけに、海洋大循環モデルの数値シミュレーションを行ったり、人工衛星からの様々な観測データを解析して、全球的な視野で考察していく必要があるわけです。 私の研究室では、海洋と大気の熱のやり取りに関する様々なデータをデータベース化し、世界中の研究者に発信・提供しています。データベースの名前は、世界中の研究者に我々がお風呂に入った時に感じる幸福感を味わってもらえるように願って、J-OFUROとしました(笑)。
現在、久保田研究室では、人工衛星をはじめとする最新の観測設備・機器を使った全球的な観測データから、海洋と大気の熱のやり取りを解明するというテーマのもと、研究が続いています。
人工衛星による観測は衝撃的です。ほんの20年前にはまったく手に入らなかった計測データが手に入る。それは、海面の高さに関するものだったり、風速だったり、温度だったりするのですが、これらの組み合わせによって、海洋と気象の様々な事象の関連性が見えてきます。
また、アルゴフロートといって、世界中の海で3,000基以上稼働している観測用機器があります。これは、深度2,000mまで潜って温度や塩分濃度を自動的に計測して、データを送信してくれるものです。これによって海中の様子がほぼリアルタイムでわかるようになってきました。こんな風に最新の機器で取得した観測データを解析し、海と大気の熱のやり取りの実態を探っていくことを行っています。海にロマンを感じる人が最近は少なくなったなんて話も聞きますが、地球規模の壮大なデータから私たちの環境のベースを成している海の実態を解明していくことは、とてもロマンのある世界だと私は思います。
地球環境を決定づける役割を果たしているとさえいえる海。海を知る事は、地球を知る事。私たちはこれからも地球環境を皆様とともに考えていきたいと思います。
■プロフィール/久保田雅久先生
1951年東京生まれ。東京大学理学系大学院卒。理学博士。東海大学海洋学部環境情報工学科教授。専門は、海洋物理学・海洋気象学。
所属学会:日本海洋学会、日本気象学会、日本鞘翔学会、海洋理工学会、アメリカ気象学会、アメリカ地球物理学会
受賞:海洋理工学会論文賞、松前重義賞、日本気象学会堀内賞
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