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旧ピジョンポスト

ピジョンポスト Vol.55

2007.10.31

住宅からのCO2排出量を半減〜

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〜住宅からのCO2排出量を半減〜 環境と快適性の両立を実現する住宅 無暖房住宅

信州大学工学部社会開発工学科 教授・工学博士 山下恭弘先生 信州大学で、建築環境工学を長年にわたり研究されてこられた山下教授。2005年から、信州大学のキャンパスに無暖房住の実験棟を建てられ、研究を続けてこられました。冬の寒さの本に厳しい長野市で、暖房器具などで生活できるのか。山下教授に伺いました。


無暖房住宅とは、どのようなものなのでしょうか


建物の壁、屋根、窓、換気の性能を高めることにより、寒冷地でもテレビや冷蔵庫、太陽熱を利用して快適に生活できる住宅のことです。照明や家電製品の他にも、私たち人間も熱を排出しています。それらの熱を利用することで、特別な暖房器具を使用しなくても快適な生活ができる住宅、それが無暖房住宅です。住宅で年間に使用するエネルギーの約5割が冷暖房に関わるエネルギーです。このエネルギーを削減できれば、住宅から発生するCO2も大幅に削減できます。無暖房住宅でもうひとつ大切なことは、快適であること。快適な生活ができるということは、健康にも良いわけです。家中どこでも温度変化がないというのは、健康面においても大変なプラスになります。


山下先生が無暖房住宅を研究されたキッカケは何だったのでしょうか。


私は5年程前から「エネルギーゼロ住宅部会」を立ち上げて、シミュレーション計算をしていたのですが、計算上夏の冷房費が従来よりも増えてしまっていました。そんな時に、2005年の2月にスウェーデンから※ハンス・エーク氏が来日されて、長野、東京、札幌、京都で無暖房住宅に関する講演会をされました。私も長野会場でパネリストとして参加したのですが、スウェーデンでできるのならば長野でもできるのではないかと思い、キャンパス内に実験棟を建築してその年の秋から実証実験を始めたのです。


実験棟はどのようなものだったのですか。


徹底した高機密高断熱でもちろん外断熱工法です。8畳程の実験室と、となりに計測室を併設しました。内部には実生活を想定した内部発熱、排熱を行いました。壁は52センチ、床は50センチ、天井には70センチの断熱材を使用しました。また窓は木製トリプルガス入り、扉は木製高断熱仕様です。内部発熱源として、照明、テレビ、冷蔵庫を、また人間と同じ熱を発熱する模型も設置しました。そこで2005年9月から2006年10月まで計測と、学生に泊まってもらって、体感試験を行いました。


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▲信大キャンパス内に建てられた実験棟

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その年の冬は、大変寒さが厳しかったと思いますが、実際に体感してみた感想はいかがでしたか。


最低気温がマイナス11度を記録した1月7日の室内温度は、平均で20度でした。宿泊体験をした学生も、全く問題なく過ごせたと報告してくれました。外気温がマイナス10度を下回る日であっても、暖房器具を使わなくても快適に生活できることが実証できたのです。


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▲実験棟の温度データ




 大寒波の夜、無暖房住宅は…

2001年、イエテボリに近いリンドー村に無暖房住宅が建設された。2002年の大晦日、リンドース村は記録的な大寒波で外気温はマイナス21.5度に。心配したハンス・エーク氏が住民に電話をすると「室内温度は30度あって暑いんだ。人がたくさん集まってキャンドルをたくさんつけすぎた」との返事。エーク氏は胸をなでおろしたという。



なるほど、無暖房住宅ではかなりの省エネルギー、CO2削減が実現できるのですね。もう実用化はされているのでしょうか。


はい。現在長野県内でもモデルハウスが建築され、実用化されています。そのうち長野市内のH社のモデル住宅では、壁の断熱材は40センチですが年間の冷暖房負荷が次世代省エネルギー基準の基準値(Ⅲ地区、460MJ/m2)に対して4.3%の19.7MJ/m2と、非常に高い結果が出ています。また3階建ての集合住宅で、断熱しているRC壁と断熱していてないRC壁の温度の比較実験も行っていますが、外断熱壁の温度差は年間を通して9度でしたが断熱していない壁は30度という結果も出ています。このことからも、外断熱がいかに大切かわかると思います。今後は戸建て住宅だけでなく、集合住宅やオフィスビル等にもこの工法を取り入れることによってエネルギー使用量を減らし、CO2の発生を抑制できるものと確信しています。




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今世界ではCO2削減への取り組みがなされています。特にヨーロッパでは熱心に取り組んでいますが。


ドイツでは新築住宅の冷暖房エネルギー基準は次世代省エネルギー基準の65%である70kw/m2(約253MJ/m2)以下が義務づけられています。さらに実験的な開発目標は20kw/m2(約72MJ/m2)と、基準の1/6以下です。私も先日までヨーロッパに視察に行ってきましたが、生活をガマンして環境に配慮する、というのではなく、環境に配慮しながら、快適な生活ができる住宅に住もう、という意識が非常に高い。これからの日本の住宅も、快適さを損なわずに環境に配慮できる、しかもリーズナブルな住宅が増えていくと思っています。快適で健康に暮らせる家が環境にもやさしい。それが21世紀の住宅のスタンダードになっていくのではないでしょうか。


産業部門や運輸部門のCO2削減への取り組みが進む中、 一般家庭やオフィス等の業務部門のCO2削減への取り組みは まだまだこれからの段階です。寒冷地でなくとも年間の CO2排出量削減に大きな効果を発揮する無暖房住宅。 地球温暖化のための一般家庭部門と業務部門の 切り札として、今後の更なる普及が待たれるところです。




※Hans Gustaf Eek(ハンス・グスタフ・エーク) スウェーデンの建築家。世界初の無暖房住宅を造る。1999年度から“イエテボリ2050”のコーディネーター。活動の範囲はスウェーデンや北欧内にとどまらず、ドイツや欧州全土にも及んでいる

■山下恭弘教授プロフィール 北海道生まれ、東京工大(工教)電気工学科卒、日大理工学部建築学科卒、東京工大助手、1982年信州大学工学部助教授、1989年工学部教授、現在に至る。長野県・市の活動では県環境影響評価審査委員、県建築審査会委員、市都市計画審査会委員長ほか。地域では、信州の快適な住まいを考える会、工学部ではエネルギー自立型環境循環調和研究会などの産学研究活動。



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