2007.06.01
社員全員が育てた、豊かな「ふるさとの森」 日置電機様の森づくりの思いは、世界へと広がっています。
「信州の鎌倉」と呼ばれる塩田平。室町時代には「信州の学海」とも称されたこの地には、今もなお多くの古刹が点在する文化財の宝庫としても知られています。この由緒ある地の、こんもりとした緑に覆われた丘の上に建つ日置電機株式会社様。実はこの緑、1990年にこの地に移転するにあたって、1988年に本社工場の周辺約1.2kmに社員全員で約60000本を植樹されたもので、20年近く経過した現在では全敷地面積の36%にあたる広さの立派な森に成長しています。「地域に開かれた自然の温もりを感じる工場公園(HIOKIフォレストヒルズ)」について、執行役員 総務部長の巣山芳計さん、総務部広報・IRグループマネージャーの山崎誠一さんにお話をうかがいました。
豊かな緑に囲まれたアプローチを抜けると、白い外壁がモダンな本社工場に到着します。
-緑のアプローチの歓迎に感動しました。このアプローチの森も社員の皆様で植樹されたのですか。
アプローチの部分も1988年に社員が植えたものです。50cmほどのポット苗を植えたのですが、今では10mくらいになる木もあって、森として大きく育ちましたね。
-1988年に森づくりの植樹を行われたキッカケはどんなことだったのでしょう。
当時のこの場所は、工場団地として造成された土地でした。私たちがここに移転するにあたり、地域の皆様に私どもをご理解いただくにはどうしたら良いか、を考えていく中で、造成前は里山や田畑だったこの地に新たに自然を作ろう、と思いついたのがキッカケでした。最初は信州大学の教授にご相談していたのですが、その中でこの地に昔からあった、自然の植生の再生をコンセプトにすることになりました。そこで当時、潜在植生研究の第一人者である横浜国立大学環境化学研究センター教授の宮脇昭先生をご紹介いただいて、先生のご指導の下に日置の森づくりはスタートしました。
-宮脇先生のご指導はどのようなものだったのでしょうか。
「人間が手を入れる前の、上田市にあったふるさとの森を復活させよう」というコンセプトで、シラカシやケヤキ、コナラなど約40種類の信州の木々を、また木の種類も高木・中木・低木、常緑樹と落葉樹などこの地に元からあったものを混ぜています。その土地に本来育っているべき樹木を集めて植えることで、「鎮守の森」を作るのです。植樹にあたっては、混植・密植といって、とにかく苗の種類を「混ぜて、混ぜて」植えることをご指導いただきました。確かに自然の森では同一種の木が固まって育つことはありませんからね。自然の中では多様な植物が競争しながら少しずつ我慢をして共生するというのが一番望ましい姿なのです。そうすることによって、様々な植物が森を形成して、木が生き生きと育つ「元気な森」ができました。
-森のメンテナンスはどうしていらっしゃいますか。
今は道路側にはみ出した部分を刈り込むくらいです。植樹から2~3年は植樹した苗の成長を助けるために周囲の草取りなどをしていましたが、ある程度木が育ってからはそれも必要なくなりました。私たちが目指した鎮守の森は人があまり手出しをしなくても自然に任せることができることを目的としています。鳥が種を運んで来たのか、植樹していない松の木が生えたりしますが、社員がお正月の門松用に切っていきます(笑)。それはむしろ大歓迎ですね。
社員と地域住民が育てる、 「ふるさとの森」活動は、 世界へ広がる。
-こちらの森は地域の方にも開放されているとうかがいましたが。
森づくりの原点は地域の皆様にご理解いただくことでしたので、どなたでもお越しいただけます。早朝や休日に森を散策されている方もいらっしゃいます。地元の学生さんが、この森には数十種類の鳥が住んでいるので巣箱を掛けさせて欲しいとおっしゃって、森の中に設置してくださいました。また狸や狐などの野生動物も来ているようです。
-移転されてからも森づくりは続けられているのですか。
毎年新入社員による記念植樹を行っています。今年も6月に新入社員の植樹を予定しています。自分で植樹をした森なので、成長の具合が気になるのでしょうか、お昼休みなどに森の中を歩く社員もいます。そんな中で、森に蔓草が伸びて来ているから手入れをしよう、と申し出たりと、森を自分たちのものとして大切にしています。ゴールデンウィークには、ノーベル平和賞を受賞したケニアの副環境相ワンガリ・マータイさんの呼びかけに共感した宮脇先生と当社の社員4名が、ボランティアとしてケニアの植樹活動に参加してきました。「ふるさとの森」活動は、社員の自発的な意識によって支えられている面も大きいですね。
-1995年からは地域緑化活動にも力を入れられていますね。
緑豊かな環境を地元の皆さんとともに創造していこうと、「ふるさとの森づくり」として地域の学校や公共施設にのべ30000本以上の植樹を行ってきました。社員のボランティアを募ってお手伝いをするのですが、自分の子供が通っていたり、自分の母校だからと参加してくれる社員が必ずいます。この「ふるさとの森づくり」活動は、2005年から「財団法人HIOKI奨学・緑化基金」で引き続き運営されていて、対象地域も全県に拡大しています。今年は白馬中学校で5月26日に約7000本の植樹を行いました。
-本社の向かいに立派なグラウンドとテニスコートがありますが。
野球グラウンドは地元のリトルリーグが週に4~6回練習に通って来て、当社の社員も指導者として少年たちと共に汗を流しています。テニスコートは地元の中学や高校の生徒さんの練習に開放しています。また当社が運営するジュニアスポーツクラブでは、地元の小学校 1.2年生約50人が所属していて、スタッフとともにスポーツを楽しんでいます。
植樹から20年近く経過した森は、多様な樹種がしっかりと根を下ろし、葉も青々と陽の光を反射、美しい「工場公園」となっています。取材当日は初夏としては記録的な暑さだったのですが、森の中はひんやりと涼しく、気持ちのよい心が癒されるひとときを過ごすことができました。日置電機様の元気な森の活動、「ふるさとの森づくり」は、確実に地域に根を下ろし、森づくりから始まった環境への思いは、大きく世界へと葉を広げています。
日置電機株式会社
1935 年創業。電子計測器の開発・生産・販売において常に市場をリードするリーディングカンパニー。1990年に上田市のHIOKIフォレストヒルズに移転。クランプオンパワーハイテスタが優秀省エネ機器「日本機械工業連合会会長賞」受賞ほか、省エネ関係の受賞多数。2004年にふるさとの森づくり活動で「第6 回信州エコ大賞」、2005年には緑化優良工場として「経済産業大臣賞」を受賞。自然環境を大切にする企業活動は、全国に知られています。
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