2006.02.01
電波の目が探る宇宙の謎―国立天文台 野辺山宇宙電波観測所所長 坪井昌人先生
標高1,350m、長野県南牧村の野辺山に、わが国を代表する電波観測施設、国立天文台野辺山宇宙電波観測所があります。今回お話を伺うのは同所所長の坪井昌人先生。80年代初頭、東大で天文学を学ぶ学生時代から野辺山に毎週通っていらしたとか。
「大学3、4年生の頃でしょうか、野辺山に天文台が出来るというので、まさに、草木もなびくように、みんな野辺山へ行きたい、と(笑)。私も、遠い宇宙の研究をやってみたくて、修士1年から通うようになりました。当時、出来たばかりの45m電波望遠鏡は、世界最大の電波望遠鏡と言われて大きさは確かに凄いんだけど、肝心の電波の検出器の性能が十分でなかったんです。当時の世界最高は米国の検出器でしたが、実際に米国から輸入可能なものはせいぜい半分位の性能のものでしたね。良い道具がなければ良い観測は出来ない。これじゃだめだと、米国を凌駕する国産の検出器の開発が、天文台で始まったんです。私もそこに加えてもらって、そうですね、米国に追いついたのは、80年代終わりから90年代に入った頃かな。今でも、ミリ波と呼ばれている設備は、その全てがとはいいませんけど、世界最高の性能を持っているんで すよ。」
-光の望遠鏡と違い、宇宙空間の電波の強弱を計る電波望遠鏡。小学校の頃から天体望遠鏡で夜空を眺めていた坪井少年は、中学生になるとアマチュア無線の世界に魅せられます。宇宙と電波。少年時代に熱中した二つの興味が、やがて電波望遠鏡という大きなテーマに向かっていったのは必然だったのでしょうか。
「天文学の両輪は、『実験と観測』、そして『理論』です。私は小さい頃から観測が好きなんですね。だから今でも観測一筋。もちろん、観測装置の開発も自分でやります。装置の図面を起こすところから。
電波望遠鏡というのは、空の電波の強弱の図が得られますが、これによって、光の望遠鏡では見えない、星の材料になるガスが見えるんです。どこにどんな材料があって、どこで星が生まれているか、が判るんです。
生命に欠かせないアミノ酸も宇宙にあると考えられています。アミノ酸は特殊な電波を出します。野辺山の電波望遠鏡でもアミノ酸の探索も行なわれていますが、まだ決定打はありません。ただ「これがそうでは?」という片鱗は見え始めています。近い将来、野辺山の電波望遠鏡が宇宙空間に生命の起原を発見する可能性はありますよ。」
-「趣味もやっぱり天文学ですね」とおっしゃる坪井先生。最近、電波望遠鏡を向けられる対象は何なのでしょうか?
「今、一番興味があるのはブラックホールですね。一番近いのは、私たちが属する銀河系の中心部にもあります。ブラックホールというのは、普通の宇宙空間と比べて桁違いに大量のガスが集まる特別な場所なんです。ガスが集まると、やがて新しい星が誕生する。そうした過程を研究する、これはとても刺激的なテーマです。
私は何でも一番じゃないと気が済まないんですが、そのせいか、論文のタイトルに、Discovery of ~ 、つまり「○○を発見しました」というのがどうも多いんですね(笑)。ブラックホールでどんな一番を発見できるか、楽しみなんですよ。」
プロフィール
坪井 昌人先生
1957年:東京生まれ
1981年:東京大学理学部化学科卒業
1983年:東京大学理学部天文学科卒業
1988年:東京大学大学院博士課程(天文学)終了理学博士取得
1989年:国立天文台助手
1993年:茨城大学理学部助教授
2004年:国立天文台教授/総合研究大学院大学教授 国立天文台野辺山宇宙電波観測所所長
2005年:東京大学理学系大学院教授(併任)
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