2005.10.01
研ぎ澄まされた感性から、創造の糸口が見えてくる。~陶芸家 小林陶春先生~
「縄文時代、私たちの祖先は火焔土器という大変、生命力に満ちた、芸術性の高い器を生み出しました。その末裔である私たちにも、彼らからきっと何かが受け継がれているのではないかと感じるのです」と話される小林陶春-先生。地域に根付いた活動の一方、陶芸作家として、色象嵌技法を確立。さぎ草をモチーフにした繊細な作品から、アジア、環太平洋地域の習俗にインスパイアされたものまで、独自の作風は高い評価を受けています。
アジアに学んだ色象嵌技法
-筆で描き込まれたような繊細な紋様が素敵ですね。
自分の感性を表現するのに最も適した技法を探していた時期に訪れた韓国で出会ったのが、陶器に彫った模様に土を埋め込んでいく象嵌技法でした。そこに自分の工夫を加えたんです。埋め込む土に色土を使ったらどうかと思いつき「色象嵌技法」と名づけ作品に取り入れました。
-先生の代表作として、山野草に題材をとった作品が知られていますが。
最近、好んで取り上げているのはさぎ草です。その名の通り、さぎが羽を広げた形をしているんですね。まるで、大空を自由に飛び回るさぎの美しさに魅せられ、羨み、自らの姿をさぎに変えたのではないか、と思ってしまうほどです。その可憐な姿に惹かれ、好んでモチーフにしています。
さぎ草の他、よく訪れる東南アジア、環太平洋地域の習俗に題材を求めることもあります。ミャンマーの村落で生活する人々も、さぎ草も私にとっては同様にとても興味深いモチーフです。何に触発され、創造のきっかけが得られるかわかりませんから、常に、感性を研ぎ澄ますようにしています。
欲しい偶然を手に入れるために
-色象嵌の繊細な作品とは対照的に、大変力強い作品もありますね。
戸隠高原に設けた穴窯で焼いたものなんですよ。炎の加減や天候、自然釉に使う松やナラの灰の具合で作品の出来は大きく変わります。経験と感覚を最大限に働かせ、可能な限り手を尽くす。その上で、欲しい偶然を得られるかどうか、最後は人智の及ばないところに委ねるわけです。計算し尽して創る色象嵌とは別の、これまた陶芸ならではの面白さではないでしょうか。
作品が並ぶ美術館の一角にあるお茶室では、年に一度、生徒さんが自分の作品でお抹茶を頂く会が催されるとか。「お好きなお茶碗をお持ちになって是非参加してください。器は使ってこそ味わいが出るのですから」と話される先生。そのお人柄は、繊細な紋様と柔らかな色合いが特徴的な作品から受けるイメージそのものでした。
プロフィール/小林陶春(こばやしとうしゅん)先生
1941 年、長野市生まれ。1972年北信濃焼窯を築窯。自宅内に陶芸教室を設け、小学生から熟年層まで150名あまりの生徒の指導をする一方、陶芸作家として、一水会陶芸展、県工芸展を始め多数の入選・受賞歴を持つ。代表作の「色象嵌さぎ草文深鉢」は、現在、タイ王室に貸し出されている。アジア・環太平洋の焼き物についての造詣も深い
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