2004.03.01
花火師は、観客の感動に感動する。 アルプス煙火工業株式会社 堀内幸敏さんにインタビュー
あの一瞬の芸術に、心を奪われた経験はありませんか?
花火が、火薬の化学現象によって起こる爆発音や閃光の集まりだけならば、日本人に愛されることはなかったでしょう。中国から伝わった、伝達方法に過ぎなかった花火。日本花火師の築き上げた伝統技術によって、その美しさと芸術性が私たちを癒してくれます。信州の小京都飯田市郊外で、花火製作に携わるアルプス煙火工業株式会社 代表取締役堀内幸敏さんにお話をうかがいました。
長野の花火は世界一。
-日本の花火の美しさは、世界一だと聞きました。「長野の花火は日本一」という本があるくらいですから、長野の花火は、世界一ということになるのでしょうか。
(笑)日本の花火はだいたい3系統に分類されるのですが、その3系統のトップが長野県にある花火屋なのです。多くが、その3つの花火屋に弟子入りしています。長野県は技術革新、工夫など先進的な花火屋が多いせいでしょうね。
-アルプス煙火さんでは、どのような花火作りを目指しているのですか?
星(開いたときの花弁を形作る火薬の固まり)の消え口、色合いが良い花火作りを目指しています。しかし、なかなか思い通りにはいかないもので、火薬の配合から始まって、燃える速度も考えます。星をパイプに詰めて燃やし、火薬の特性を見たりします。このように試行錯誤を繰り返しても完璧なものや納得のいくものはなかなかできません。同じ星を仕込んでも、詰める人によって全然違う花火ができるのです。私たちは分業体制です。貼り手(合わせた玉の外側に何重にも紙を貼り重ねる作業を行なう人)だけが良くても、星だけが良くても駄目。何が欠けても駄目、チームワークが一番大切なのです。
-では、打ち上げには皆さんで行かれるのでしょうか。
ええ、皆で行きます。仕事の結果を見ることができるというのは、やりがいがあります。
-最近、昔風の花火ややなぎなどの色が少ない花火も多く見られる気がしますが。
そうですね、一部で使うと渋い演出になります。色のある現在の花火を洋火といい、化学薬品を使って色を出します。昔の花火は和火といって、「硝石」「硫黄」「炭」だけからできています。炭に使う木材を変えることで色を変えていたようです。しかし今では、夜空が明るいので、昔の花火では暗すぎてきれいに見えません。
-いわゆる光害でしょうか?美しく澄んだ夜空だったら、和火でも楽しめるのかもしれませんね。
私たちの感動は届いている?
-私たちは、花火を見て「きれいだな」と、一瞬の芸術に心奪われ、感動をします。製作される側は、どういうところに感動や喜びを感じるのですか?やはり、夜空に思い描いたとおりの花火を打ち上げられた時でしょうか。
実は、現場では忙しくて自分の花火はほとんど見たことがないのです。危険な現場ですから、作業指示をしたり、タイムテーブル通りの打ち上げを行なうために走りまわっています。私たちの打ち上げた花火を見て、感動したお客さんからいっぱい拍手をいただけることが喜びなのです。お客さんの「わー」という歓声、「おー」というどよめきに、花火師達は感動するものなのです。
-打ち上げ時の、あの大きな音で、私たちの歓声は花火師さんに届いていないものかと思っていました。私たちが癒された、あの感動も、ちゃんと届いていたのですね。
■プロフィール/堀内幸敏(ほりうち ゆきとし)
昭和20年12月10日長野県駒ヶ根市生まれ。
昭和50年頃から花火製作に携わり、昭和52年アルプス煙火工業創設。
平成15年伊勢神宮奉納全国花火大会打ち上げ花火の部にて優勝。その他全国各地の大会で入賞多数。
※掲載内容は発行時点のものです。最新情報についてはお問い合わせください。