2001.12.01
ミヤマ環境フォーラム 地球への旅 2001年10月26日 JA長野県ビルアクティホールで開催いたしました。
■主催/ミヤマ株式会社 ■共催/信濃毎日新聞社
■特別協力/東海大学・環境新聞社・長野放送
■後援/信州豊かな環境づくり県民会議・長野県地球温暖化防止活動推進センター・社団法人長野県環境保全協会
私たちはどこから来て、どこへ行くのでしょうか。46億年の歴史を刻む地球。私たちはこの惑星に生を受け、今この時を生きています。地球は今もダイナミックに変貌し続けています。しかし、その姿を私たちはほんのわずかしか知りません。私たち人類が、今大きな課題として直面している様々な環境問題は、変貌を続ける地球の姿と切り離して考えることはできません。そんな地球と人や社会の働きかけによる環境要因を捉えながら、「これからも地球人として生きていく私たちの条件」を探る旅に皆さんをお誘いするのがこのフォーラムの目的です。
第1部:基調講演
「海洋大循環の謎を追って」
-海洋フロンティアからの報告-
講師:東海大学海洋学部地球環境工学科
教授 久保田 雅久氏
この基調講演は、海への理解を深めるために、久保田教授のトークとビジュアルを一体化させ、1時間20分の講演を写真、VTR、アニメーションを駆使して音と映像で表現いたしました。
紙面構成上、講演のすべてをご紹介することができませんので、ダイジェストでお伝えいたします。
海洋の流れ。
「地球は青かった」と言われるように、地球表面の70%が海ですが、深さも10000mにも達する海溝があり、地球上の土をすべて海に放り込んで平らにすると、地球全体が2400mの深さの海になってしまいます。海に蓄えられている水の量は地球全体の水分の97%です。地球には2つの大きな特徴があります。一つは丸いこと、もう一つは回転していることです。この2つの特徴が海に影響し、エクマン螺旋と地衝流という2つの大きな流れをつくりました。この流れに風が作用し、強い流れが形成されたのが海流です。
ゴミはどこへ。
人工衛星から得られたデータをもとに北太平洋に浮かぶゴミの流れのシミュレーションを行なうと、北緯30度~40度付近にゴミが集まる海域ができ、海流によって東に運ばれ、ハワイあたりに集まります。ゴミの分布はかなり偏っていて、原因を生み出した人達とその影響を受ける人達が異なることになります。こうしたことは、地球環境問題では往々にしてあり、問題解決を難しくしているのではないでしょうか?
ベルトコンベア。
海の中では大きな対流が起こっています。グリーンランド付近で沈んだ水は大西洋を西岸に沿って南下し、南極の周りを回りつつ、一部はインド洋に、残りは太平洋に入ってきます。そして北上しながら上昇し、海面の水と一緒になりながら表層付近で北極付近へ戻っていきます。この大きな水の移動をベルトコンベアと呼んでいます。このベルトコンベアによって温かい水は冷たいところへ、冷たい水は温かいところへ運ばれ、地球上での温度差を減らす方向に働いているのです。現在のような人間にとって優しい気候が地球上で展開されているのは、このような大きなスケールでの循環が存在しているからなのです。この循環のタイムスケールは約2000年です。
海と天気予報。
最近は天気予報の精度が非常に高くなり、2~3日後の予報でしたら良く当たります。ところが予報期間が長くなるほど当たりません。2~3日後までの天気を予報する材料はすべて大気の中にあるのですが、1週間、1ヶ月間あるいは1年といった先の天気の情報は海洋にあるためです。長期予報の精度を上げるためには、海洋に関する研究を進める必要があるのです。
大気と海の熱のやりとり。
太陽からの熱エネルギーは直接大気を暖めるのではなく、ほとんどが海に蓄えられ、海流などによって運ばれつつ大気を暖めています。海から大気に出て行く熱は3種類ありますが、最も大切なのは潜熱です。物質がその状態を変えるときに伴う熱のことで、海から熱を奪い、水蒸気として蓄えます。例えば台風は水蒸気を雨に変え、海からもらった巨大な熱エネルギーを大気中に解放します。台風は大雨を降らせ洪水を起こしたりしますが、大きな視野で見ると、熱の源である赤道太平洋のメッセンジャーとして、地球上の熱の分布を一様化し、穏やかな気候システムを作り上げる、重要な役割を持っているのです。
気象値・異常気象・気候変動。
最近は異常気象という言葉を良く聞きます。100年ぶりの集中豪雨というニュースがあっても地球全体での水の量は一定ですから、地球上のどこかで干ばつが起きていることになります。異常気象は絶対量が増えるのではなく、配分が偏る現象であるという捉え方が重要なのではないかと私は思います。また、地球が温暖化しているのではないかという問題については、化石燃料の消費や森林伐採という人間活動によりCO2が増加したことは確かですが、大きな気候変動は、地球の歴史の中ではそれほど珍しいものではなく、人間活動の結果なのか、自然界がもともと持っている変動特性の結果なのかという区別は非常に難しいところです。しかし、それがはっきりするまでには大きな時間スケールが必要で、それを待っているわけにはいきません。先ほど、ゴミの流れで示したように、原因と結果が別のところで起こることも往々にしてある以上、日本人であるとか、アメリカ人であるというよりも、地球人であるという感覚を持つ必要があるのではないでしょうか。
第2部:トークセッション
パネリスト/久保田 雅久教授
写真家 浅井 愼平氏
エッセイスト・国際ラリースト 山村 レイコ氏
ナビゲーター/環境新聞社編集局長 小峰 且也氏
第1部の基調講演をうけ、第2部では小峰編集局長のナビゲートによるトークセッションが行なわれました。海の話から始まり、地球人としての感覚を身につけるにはどうしたらよいのか、科学と環境、命の多様性など、一時間半に及ぶ興味深いトークが展開されましたが、今回は「環境を理解するアプローチ方法」のトーク部分を抜粋して掲載いたします。
小峰:いろいろな観点がありすぎて全体像が見えにくくなっている環境問題ですが、環境を理解するためのアプローチ方法は?
浅井:自分が自然の一部であることを認識することだと思う。海のメカニズムも自分のメカニズムもどこかでつながっている。自分と世界を別のものとすると不幸なことになるのでは。
山村:同感です。18歳の時、バイクで旅をして、海岸にゴミがたくさんありましたが、日本のものだけではなくて、世界はつながっているんだと思いました。絶望と希望を繰り返していますが、21世紀にも素晴らしいものがある。それはみんなの感覚が変わってきていること。
久保田:海を通して世界がつながっているという感覚が、全体の理解につながる気がします。しかし、今は感じる機会がない。現状を体験し、それを原点にしないと、科学だけでは間違った方向に行ってしまう可能性もある。
浅井:ミッドウェーに行った時、海岸にアホウドリの死骸が累々とあり、その内蔵から100円ライターやゴルフボールが出ていた。それを見たとき、「鳥のことではない。人間のことなんだ。」とショックを受けた。今は個人の感じる力より社会のシステムのほうが先に立つ。人が感じ、行動することも大切だが、社会のシステムを変えていかなくてはならない。地球を後の人にどう残すか。社会の仕組みと市民がかみ合わなければならない。急がなくては。
山村:私はそれを子供と女性に期待している。クジラの親子と泳いだ時、母性を強く感じた。母クジラは3年間何も食べずに、子供が一人前になるためのあらゆる事を教え、守り、そして時期がきたら永遠の別れがくる。こうした無条件の愛が、社会のいろいろな問題を解決するのではないか。
浅井:生物の営みを見たとき感動するが、そういう人間がこうした環境を作ってしまった。それをどうしたらとり返せるか。今認識しなければならないのは、すべてがつながっているということ。この意識の中で、市民意識の高まりは大切だが、それをどうシステムにして、どうフィードバックしていくか。何を選択するかが課題だ。
小峰編集局長 フォーラムのまとめ
今回のフォーラム第1部、基調講演では、久保田先生から深層大海流が2000年の歳月をかけて私たちの前に現れていることなど、海のメカニズムについて教えていただきました。身近な環境問題も大切ですが、広い視野や長期的な視点で環境問題を見つめなおす大切さをあらためて思い知らされた思いです。第2部のトークセッションでは、命の大切さ、命を感じる心について話し合われました。しかし、今この地球上で、私たちはまるで自己破壊のプログラムが仕組まれているように殺し合い、環境を破壊し、破滅への道を進んでいるようにも見えます。環境問題は、そう簡単に結論の出せる問題ではありません。皆さんが実生活の中で環境問題にどう取り組んでゆくかが、私たちに課せられた課題ではないでしょうか。
ミヤマでは環境フォーラム「地球への旅」をシリーズ化し、皆様と共に多角的な切り口から環境について考えていきたいと思っております。次回にご期待ください。
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