2001.10.01
「信州百水」 源流から大河へ...信州水物語
栗田 貞多男(くりた・さだお) 1946年長野市生まれ。電子機器会社勤務を経て写真家に転向。故・田淵行男氏に師事、蝶と山・川などの自然を撮り続ける。著書に『千曲川』『ゼフィルスの森』『黒部峡谷』『信州美しき百山』(上・下巻、共著)など。『ゼフィルスの森』にて日本蝶類学会第三回江崎賞を受賞。クリエイティブセンター・フォトライブラリー長野主宰。日本写真家協会、日本昆虫協会、日本蝶類学会会員。 この春、信濃毎日新聞社から発行された「信州百水」は、写真家栗田貞多男氏の写真と文で構成されたフォトエッセイ集です。序文でC.W.ニコル氏が「・・・彼はわかっている、何が大切かをちゃんとわかっているのだ・・・」と栗田氏を評するように、この本は単なる観光風景写真ではなく、見るものに静かにメッセージを送ってくれます。 今回はその栗田氏に、山、川、自然、環境観などをインタビューしました。
-「信州百水」を拝見すると、私たちの住む長野県は本当に美しい所なんだと再確認しますね。水をテーマにされた理由は?
実は「信州百水」の前に「信州美しき百山」を出版していまして山をたくさん撮ったのですが、その時にぜひ信州の水をテーマにしてまとめてみたいと思いました。山頂に至る道の多くは渓谷に沿っていて源流へ遡上してゆくので、山に登る時、水の存在を意識します。山があるから川がある。そこにはさまざまな自然があり、川が里へきて人間とのかかわりができる。信州は日本の中でも最も典型的で変化に富んだ水の循環の姿が見られるところだと思います。
-30年間、自然の写真を撮りつづけている栗田さんから見て、環境の変化は?
身近な所ほど変わっていますね。山の標高の高い所、川の源流よりも、里山、生活水として使われている川が変わっています。私が子供の頃は長野県庁の裏の裾花川でカジカをとって遊んでいました。ダムや護岸工事など人間生活を優先することで虫がいなくなる、魚がいなくなるというように、連鎖的に環境が変わってしまうようです。例えば千曲川は護岸工事をあまりしていない川なのですが、広い河川敷は農地になっていて、春にはリンゴや桃の花が咲き、野菜畑があり、アシの茂みがあったり、自然に生えた木があったり、のどかな信州の原風景として、他の川にはなくなってしまったシーンがあります。やはり、こういう所には虫、魚、鳥がたくさんいて、自然と人間がうまくやっている心地よさが残っています。
-自然と人間がうまく共生しているということですね。
大雨の時には畑は冠水してしまいますが、水がひけば元に戻ります。人間が自然に逆らわずに川と共に農業を続けています。新潟県にある魚野川は今でも毎年 5000匹もサケが帰ってくる川で、サケを業として生活している人がいます。こういうふうに川を水資源としてだけでなく生活の一部としている所は、自然保護なんて大それたことをいわなくても良い環境が守られていくのではないでしょうか。
-日常的にあまり自然と関わりなく過ごしている私たちはどうしたらよい方向を見出せるでしょうか。
やはり自分で見て感じることが大切だと思います。何か目標というかテーマを設定して、たとえば自分が好きな山とか川とか鳥とか、そういうものをとおして自然を見てゆくと、そのまわりにある大切なものがたくさん見えてくると思います。
-「信州百水」では写真の一つひとつに撮影ポイントが記載されていますので、ぜひその場所に行って、見て、感じてみたいと思います。本日はありがとうございました。
「信州百水」
著者:栗田貞多男
発行所:信濃毎日新聞社 (写真:「信州百水」より)
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