2000.10.01
歴史と自然の宝庫「戸隠」 「戸隠森林植物園ボランティアの会」会長インタビュー。
そろそろ紅葉が始まり、秋の行楽シーズンの到来です。長野県内でも代表的な観光地のひとつ戸隠村は、標高1000mを越える高原に森林地帯が広がり、豊富な植生や野鳥に親しめる貴重な一帯です。1998年には戸隠森林植物園内にカラマツの集成材を使ったログハウス風の「学習館」ができました。同館には、自然観察の基礎知識が学べる展示室やマルチシアターが備えられています。そして、この「学習館」の活動を支えるのが「ボランティアの会」です。 今回は同会と「戸隠ふれあいの森 森林整備協議会」両会の会長として活躍する水上憲宗氏にお話しを伺いました。
-水上さんは、ここ戸隠村越水にロッヂを経営するかたわら精力的にボランティア活動を展開なさっていますが、ボランティアを始められたきっかけは?
33 年前にロッヂの経営を始めた頃、知っている花はタンポポ、鳥はカラスぐらいで、自然とは無縁の人間でした。ところがここで生活し、戸隠村の皆さんと付き合いが始まって、いろいろな事を教えてもらいました。やはり1000年も自然と共存してきた村の方は生活の中に自然があり、切実で根源的な付き合い方をしています。自然環境としなやかに共存しているんです。私自身もこの場所で生きていることで人生観も人間もすっかり変わりました。妻に言わせると「結婚した相手と別人」だそうで(笑)、ロッヂ経営のかたわら、知人の所有する土地の管理を任されたり講演を頼まれたりするうち「ボランティアの会」ができまして、とりたてて、さあボランティア活動を始めようと思い立って始めたわけではありません。
-ボランティアの活動内容は。
「ボランティアの会」では、園内のガイド、ゴミ拾いの他、毎週日曜日にだれでも参加できる自然観察会を開いて来園者に自然と親しんでもらったり、専門家の会員が鳥や草木の調査、冬季の積雪や気温調査などをしています。この植物園の来場者は年間20万人で、環境保全の観点からは許容量を越えています。しかしいたずらに入園を制限するのではなく、この地域の他の植生豊かな所に誘導できないかと考えていたところ、中部森林管理局が自然休養林のうち605haを住民団体が独自に森林整備や美化などの活動をする新しい制度の「ふれあいの森」に指定しまして「森林整備協議会」を発足しました。
-規制よりも提案。大変しなやかな方針ですね。「ふれあいの森」ではどんな活動を計画されていますか。
最澄が天台宗を開いて約200年後、今からほぼ1000年前に奥社参道のあたりに寺が建立され、天の岩戸伝説が生まれるなど、ここ戸隠は歴史の宝庫でもあります。戸隠を経て高妻山に登る「講」の道、小谷村から日本海にでる「防人(さきもり)」の道。「ふれあいの森」の活動で埋もれた歴史ある道を再興すれば、植物園への負荷を軽減しつつ、歴史と自然が詰まった戸隠の新たな魅力を紹介できるのではないかと思っています。
-現状を維持するのではなく、発展させるボランティア活動ですね。
私は専門家ではありませんが、自然を過保護にしてはならないと思っています。そこで生きている人と共存してこそ意義がある。なんでもかんでも保護の「自然保護屋」はいらないと思っています。戸隠はもともとブナの原生林だったのですが、今は植栽されたカラマツなどの針葉樹林になっています。しかし保水に優れ、山を守るブナは必要な木ですから、ブナの苗を家庭で育ててもらって山に返す「ブナがえし」の運動も展開しています。自然を良い方向に変えていくことも必要ではないでしょうか。知識のある人は知識を、時間がある人は時間を、お金がある人はお金を提供し、その時代にあったボランティア活動をしていくことで自然と共存する道を探っていきたいと思っています。
-本日はありがとうございました。
※掲載内容は発行時点のものです。最新情報についてはお問い合わせください。