2000.06.01
『リサイクル陶芸家』佐良志奈(さらしな)焼き 重田壮炎氏に聞く 陶芸店『たからや』を営む重田壮炎さんにお話をお聞きしました。
長野県上山田町は、戸倉上山田温泉で有名な温泉町。
この地で陶芸店『たからや』を営む重田壮炎さんは、陶芸『佐良志奈焼き』の創始者でもあります。釉薬の青が美しい独特の色彩は、温泉を訪れる観光客にも人気。美しい造形と色彩を持ちながら、同時に生活陶器として使える庶民感覚とのバランスが人気の秘密です。この佐良志奈焼きが、リンゴ農家から出る廃材を利用した焼き物である、との話しを聞きつけ、お話を伺ってみることにしました。
昭和38年、生まれ育った福井から上山田に住まいを移し、観光客相手のみやげ店を開いた直後のこと、単なるみやげ店では『たからや』の独自色を打ち出せないと考えた重田さんは、陶芸を始め、自ら作った作品を店で販売する事を決心しました。福井でのサラリーマン時代、交流のあった窯業試験場の人々からのサポートが得られたのも、大きな支えになりました。幾年にもわたって長野県の各地を、理想の土を求めてさまよい、これは、と思う土を見つけると、窯業試験場に持ち込んで土の組成を詳しく分析する日々が続きました。結局、特定の土のみでは自分が理想とする焼き物が出来ないことが判ると、3つの異なる土地から出た土を『ブレンド』して、佐良志奈焼きの土が出来上がったのです。
土の次は、釉薬に使う木灰です。木灰に選んだのは、上山田周辺に多いリンゴ農家から出るリンゴの廃材でした。決して理想的な木灰とはいえないリンゴですが、選定され畑で燃やされ灰になるだけのリンゴの廃材を陶芸に『リサイクル』利用出来ないか、と重田さんは考えたのです。リンゴの木灰のうち、ごく一部を厳選し、また、藁の灰のうち、これまた厳選した部分をうまく組み合わせて使うことによって、佐良志奈焼き独特の色彩を出すことに成功したのです。
もうひとつのリサイクル『土びなづくり』の夢
長年の創作活動により、次第に認知され、戸倉上山田温泉の名産品のひとつとして知られるようになった佐良志奈焼き。この独自の技法がどのように継承されていくのかは、気になるところ。
「幸い、息子が後を継ぐ、と言ってくれています。焼き物の文化は10年、20年といった時間で根づいていくものではありません。代を継ぎながら少しずつ定着していけば良いと思っています。」と、目を細める重田さんには、もう一つの夢があります。それは、土びなづくり。土びなはもともと、陶器づくりで余った土を『リサイクル』して作られた歴史があるとか。火を通し焼くことで『命を入れる』陶芸と異なり、土びなの中には、火を通さないものもあります。子供の身代わりになって災厄を引き受け、祭りが終わると川に流せば、再び土となって大地に戻っていく土びな。陶芸が盛んな土地には必ずある土びなの伝統を、上山田にも根づかせたい。『リサイクル陶芸家』重田さんのチャレンジはまだまだ続きます。
※掲載内容は発行時点のものです。最新情報についてはお問い合わせください。